猫とお絵かき徒然日記

日々徒然なるままに飼い主の邪魔ばかりする猫をお共にあんなことを言葉にしたりイラストにしたり。

機動戦士ガンダムオリジナルストーリー 「星の世界」

さて私、古賀弼子は現在、岡田スクールR「ガンダム塾R」にチャレンジしております。

http://okadaschool.blogspot.jp/2013/01/r_482.html

すでに10級から8級まではクリアしており次なる7級の課題は以下の通り

7級 ブログを開設する。すでにブログを持っている人は自分のブログでOK。mixiなどの非公開SNSはダメ)。クラウドシティの市民の場合はP宣言して、「なうブログ」で公開すること。 
ガンダムのオリジナルストーリーをブログに書く。岡田スクールRで、マスターにブログ画面を確認してもらう。

いやあ、小説なんてほとんど初めてで四苦八苦しましたが何とか完成しました。

それでは、皆さまご覧くださいませ♪

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機動戦士ガンダムオリジナルストーリー「星の世界」前編 クラウドシティ市民 古賀 弼子

【サイド6】ここでは、地球連邦軍であろうとジオン軍であろうと、一切の戦争行為が禁止されている。
宇宙世紀0079年1月11日に中立を宣言しジオン公国および地球連邦どちらの戦争行為にも加担しない事を両軍に宣言した。他のコロニーと違い中立宣言できたのは、サイド単独での自給自足のために必要な経済基盤があったからである。現在、連邦そしてジオン両陣営の首脳や資産家の関係者などが戦火を避けるためにこの安全なコロニー【サイド6】に集中し、さらなるなる繁栄に向け突き進んでいる。

「もし仮にジオニズムの求心力がすべてのコロニーを結束させていたなら、戦わずしてジオンは連邦に勝利したかもしれん。所詮地球は搾取の上でしか成り立たぬ存在だったのだから。だが!」

「ジオンは道を誤ったのだ。慎重に事を推し進めるべきだというのに過激で急進的な行動でもって同胞を死に至らしめコロニー落としなどという愚行に走ったあげく歪んだ選民思想に心酔しおって、おのれザビ家、よくも俺の気高い理想と青春を……オホン、コホン、いやまあそんなことはどうでもよいことだな。」

兄、テムズ・レインは言い過ぎたとばかりに赤面したが気を取り直してさらに話をつ続ける。

「重要なのはどちら側が勝っても、どのような状況の中であろうとも確実に我が社は利益を上げていかねばならんということだ。」

「ふうん。」

僕は、すっかり冷めてしまった紅茶をすすった。合成物ではない本物の紅茶特有の優しく穏やかなしかし、しっかりとした味が口の中に広がる。

兄は若い頃、ジオニズムに傾倒し亡き父と激しく対立していたらしい。
けれど現在はすっかりやり手の事業家として父の後を継いで今では政界にまで幅を利かせている。

「時間、いいの?今日はこれからぺルガミノさん達と会う約束だったよね? 」

「おお、そうだった。お前は優しい子だなジオ。」

「それはそうとお前の進路だがそろそろ真面目に考えねばならんだろう。もちろん、ああだこうだとうるさく意見する気は毛頭ないが、物知らぬ若者に道を説くのが年長者の務めでもある。いつも忙しくこうしてお前と話をするのはひと月ぶりじゃないか。」

「だから時間が」

「機械工学に興味があるようだが、」

「レイン社長、ぺルガミノ様がお見えになりました。」

「ああ、すぐに行く部屋でまたせておきたまえ。失礼のないようにな。それでだ、お前の希望を聞いておきたいのだが、」

「レイン社長、検察官からお電話です。」

「こちらからかけ直す!…なんなら卒業後はしばらく俺の下で、」

「レイン社長、どうも緊急の用件らしくて…。」

「だまれ!今、大切な話を、お、おい、ジオ!」

このまま僕がここにいるとテムズ兄さんの仕事は仕事そっちのけで他のみなさんに迷惑をかけてしまうようだしそろそろ退出するとしよう。
僕は無言のまま微笑みながら手を振りそのまま屋敷を後にした。

人工の宇宙都市の中心は重さを感じることのない無重力地帯である。
エレベーターは3000メートルあまりを降りて、重さを感じることのできる人工の地上へ着く。
山や森や川が人工的に造られていて、あたかも地球上と同じ景色を作り出している。
そして、この都市が僕たちの生活の場である。
僕はここで生まれ育った生粋の【サイド6】の人間だ。
地球も他のコロニーも知らない。
バスターミナルから中心街に進む通りをそのまま進めば人々がにぎわうマーケットがいくつも点在する。
物資は他のコロニー比べてかなり豊かなのではないだろうか。

そこにふと食料の買出しに来ている連邦の制服を着た軍属風の若者達とすれ違う。

「これで少しは変わったものを食べさせられら。」

太った青年に僕と同い年ぐらいの少年もいた。
まさかこの歳で彼も軍属なのだろうか?
それにどういうわけか年端もいかぬ子供までいる。

胸を突かれる想いで彼らの後ろ姿をしばらくの間、見送った。

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予約した店に入るとすでにもう一人の兄はすでに到着していた。

「おお、ジオこっちだ、こっち。姉貴ももうすぐ来るとさ。」

「久しぶりエニセイ兄さん。」

ここ数年仕事上ことごとくシシリア姉さんとテムズ兄さんは対立しているらしい。

「あはは。あの二人は最近とみに難しいところがあってなぁ。」

「おかげで月に一度は必ず兄弟が互いにに近状報告するというレイン家の家訓を守るのもずいぶんと手間取るようになったな。まったく迷惑な話だ兄貴のほうはどうだった?」

「相変わらず元気。」

「それは結構。俺も明日顔を出すよ。」

僕たち兄弟は外見も性格もそれぞれ違いはあれども、昔はあそこまで激しく争ったりしていたわけでもないのに
事業を父の代からさら手広く展開するようになってからどうも難しくなっている。

「目が赤いな、ちゃんと寝ているのか?食べているか?」

「寝ているし食べているよ。」

僕は苦笑しながら料理に手を付ける。

「あはは、それならいいがジオは掴みどころがないからなあ。」

エニセイ兄さんの愛嬌のある、だが抜け目ない目が光る。

「そんなこと。」

僕はわざとらしく優雅な仕草をしてみせる。

(兄さんこそ今度、秘密裏に連邦軍側の戦艦の修理と気密処理に携わるみたいだけど、大丈夫?)

(公になればちょっとした国際問題だよね?)

僕は心の中でつぶやいた。だが兄はすかさず、

「戦局の変化と共に儲かる仕事の内容も相手も変わっていくものさ。」

「!」

僕の考えていることが分かった!?

「感心せんなあ。興味本位で子供が会社のデータベースを勝手に覗くのは。」

「あ……。」

僕は一瞬身がすくんだ。

「ごめん。戦況がどうなっているのか知りたくてたまらなかったんだ。だから、つい・・・。テレビやラジオは僕たちに都合の良いニュースしか流さないし。」

「子供がそんなこと心配するな。」

「けど、ジオン側に与しなかったサイド2の『アイランド・イフィッシュ』が実際どうなったか!」

南極条約が締結された以上二度とあんなことは起こらん。それにな、ここには連邦とジオンの関係者双方の家族も多く抱え込んでいる。」

「そうよ。もし万が一何かあったならその時は難破船から逃げるネズミのように関係者家族が【サイド6】から離脱しはじめるでしょうよ。」

「シ、シシリア姉さん!」

「こっ、これは、姉上。」

「そうこうしているうちに、戦争もじき終わるから大丈夫よ。ねえ、エニセイ。」

「あはは、そういうことだ。うぐっ、む。」

姉のシシリアは、エニセイ兄さんの肩に手をかけキスした。
家族間でのキスじゃないディープキス!
兄さんの顔がみるみる血の気を失い蒼白になっていった。
僕は思わず顔をそむける。
怒っている!理由はわからないけれどシシリア姉さんはエニセイ兄さんのことものすごく怒っている!

「ゴホッ、ゴホッ、ちっ窒息するかとっ、」

テーブルに手をつき兄が激しく咳き込んだ途端、姉は力任せに足を引っ掛けて転ばせる。
そしてこの恐ろしい姉は次に僕のほうにまっすぐ体を向けてこう言い放った。

「ジオ!月に一度兄弟が互いにに近状報告するというレイン家の家訓は何の為に父はつくりしか?」

「ええっ!?ええと、同族間で経営する企業は、血縁故の甘さやつまらぬ見栄が邪魔をして円滑な対話がかえって阻害される場合があり、けっ血縁の絆を力に変えるのは、合理性と柔軟性を生み出す対話の更新が常に必要だとかっ。」

「その通りよ。あなたはいい子ね、ジオ。父が遅くにできたあなたを可愛がったのも無理はない。」

彼女は満面の笑みを僕に浮かべた。
僕も姉に向かって微笑んだ。少し顔が引きつっていたかもしれないけれど。

「遅くなってごめんなさいね。エニセイ、ジオ。さあ、お料理いただいちゃいましょう。」

僕たちはもう亡き父が言うところの『合理性と柔軟性を生み出す対話』どころではなかった。
僕は緊張で冷や汗びっしょり、そのあと出された料理はほとんど味がわからなかった。
兄もおそらく同様だったろう。
姉の朗らかな笑い声だけが絶えることはなかった。

帰りのタクシーは僕とシシリア姉さんと二人きりになりやっと僕は人心地になる。

「姉さん、どうしてあんなことを…。」

「あの子ときたら最近、私の身辺をチョロチョロしていたかと思えばテムズ兄さんにあれこれ報告していたそうよ。余計なことを画策するなんて10年早いわよ。ああ、腹立たしいったら、ありゃしない。」

「兄さんはもっと単純な人間だよ。」

「どういうこと?」

「たぶんエニセイ兄さんは、テムズ兄さんとシシリア姉さん二人のあいだをうまく収めたかったんだよ。」

「その割にはちゃっかりテムズ兄さん取り入って!兄弟というのはむずかしいしい間柄ね。親子よりもずっとむずかしいわ。こういう時、父さんなら何て言っていたと思う?」

「わからないよ。僕は父さんのことほとんど記憶にないんだから。」

「そうね。」

「ここで降りるよ。少し歩きたいから。」

タクシーを降り、まだ開いているドア越しに声をかける。

「姉さん。」

「なに?」

「おやすみなさい。」

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「ほら、あそこ!」

かつて湖のほとりで、白鳥が飛び立とうと羽ばたき 駆けてゆく姿を僕たち3人は見守った。

「白鳥は 悲しからずや 空の青 海の青にも 染まずただよう。」

セリは長い髪とワンピースをなびかせクルクルと嬉しそうに踊る。

「海って何?海って?湖じゃねえし。」

コロニー生まれで海を知らないコーリーは
さもめんどくさそうに言い放ち、僕も

「ボクスイ・ワカヤマがいう『白鳥(シラトリ)』というのは
『ハクチョウ』じゃなくて『カモメ』のことだよ。」

彼女をからかいたくてつい水を差すようなことを言ってしまう。
でもセリは、くったくもなく言い放つ。

「いいの!私は白鳥の美しさを称える為に最高に美しい詩を白鳥に捧げたのよ。
だから海でも湖でもそんなことはどうだっていいのよ、コーリー!
それにここではカモメじゃなくてハクチョウ!ハクチョウなのジオ!」

コーリー・パオロとセリ・エッシュは僕のクラスメートだった。
コーリーの父親はコロニーの建設技師で、
セリのほうは両親共にアナハイムグループ通信部門の社員。
一年前に【サイド7】にほとんど同時期に移住し
数か月前から突如音通不信の生死不明になってしまった。
いったい彼らの身に何があったというのだろう。

【サイド6】にこのまま居続ければ確かに僕は安全かもしれない。
でも外の世界は急激に変わってしまった。
人類の半数を死に至らしめた冷酷で無慈悲な世界。

僕が偶然見かけた連邦の制服を着た軍属風の若者たち。
彼らは足りない戦力を補うために戦場に有無を言わさず駆り出された人達なのではないだろうか。
僕と同い年ぐらいの少年もいた。

もう一度、彼に会いたい。
会って彼と話がしてみたい。

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【サイド6】シリンダー型コロニーの宇宙港。
以前一度だけコーリーに誘われ宇宙港の奥に忍び込んだことがある。
そんなとんでもないことが可能だったのはコーリー・パオロの父親がコロニーの建設技師で抜け道に詳しく
僕がレイン家の一員として特権でキーカードをこっそり一枚所持していたからだ。
もちろん見つかればただでは済まないということは僕たちだって十分わかっていた。
だからあの時、僕はコーリーの誘いに半ばあきれた。

「何のために宇宙港の奥に忍びこむわけ?」

「特に理由はないさ。運試しだよ、運試し。」

コーリーは皮肉っぽく口をゆがめて笑っていた。
結局僕たちは運が良かったということになるけれど
本当に運が良かったのはコーリーだったのか?
それとも僕のほうだったのか?

商業船らしき船が一隻、設置されていた。
戦争勃発に伴い中立を宣言した【サイド6】はにわかに好景気となっていた。
両陣営、特にジオン側にさまざまな物資を売りつけていたからだ。
たぶんそんな物資を輸送するための船だろう。

こんなことをして僕は彼に本当に会えるのか。
会ってどうなる?それは、わからない。
会えば何かが変えられるかもしれないと甘えてみたい。

(なあジオ、今は戦中だぞ?あの時とは状況が違う。)

(そういうところはあんた、本当に『坊や』だなぁ。)

(死ぬぞ?)

コーリーの声が聞こえたような気がした。

「コーリー!セリ!君達は無事なのか!?」

「【サイド7】で何があったんだ!あの連邦軍の勢力下のコロニーで。」

「どうか僕を…僕を…導いてほしい!」
 

機動戦士ガンダムオリジナルストーリー「星の世界」後編 クラウドシティ市民 古賀 弼子

 艦に向かって軽く地面を蹴って僕はすぐに自分の失敗に気付いた。
ここはコロニーの中心部で重力が弱くて急には止まれなかったんだ!
摩擦のないスケートのようにブレーキのない自転車のように簡単に止まれない。
以前はコーリーが受け止めてくれたが
今日はそのまま船のブリッジの前を通り過ぎるようになってしまった。
そしてなんとブリッジにはよくよく見知った顔が!

「ジオ!お前がどうしてこんなところに!ゲホッゴホッ。」

飲みかけのコーヒーにむせながら彼は叫ぶ。

「エニセイ兄さん!」

まずい、こんなところにエニセイ兄さんがいるなんて
それじゃこの艦はうちの商業船ということか。

「うわあ、汚いなあレインさん。」

「ゴホッ誰か、ジオを、彼を捕まえてくれ!」

「侵入者!?・・・ってなんだ子供じゃないか。」

「レインさん、あんたの知り合いですかい?」

パイロット用軽装備のノーマルスーツを着たジオンのおそらくは軍人が三人。
まさかこんなところでジオンの関係者にお目にかかるとは。
兄さんとジオンの軍人。
いったいどういう組み合わせなんだ。

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「坊主、チョコレート食うか?」

「けっこうです。それに僕は坊主じゃない。」

「いくつだ?」

「15・・・。」

「やっぱり坊主じゃないか。あっはっはっは、チョコレートもらいそこねたな坊主。」

僕はあっという間に彼らによって捕獲されてしまった。
彼らによると捕獲ではなく保護ということらしいが。
ジオンの軍人は強面だが見た目を裏切る陽気さと人の良さで僕を少し驚かせた。

「お前というやつは信じられん!」

エニセイ兄さんは連邦軍側の戦艦の修理と気密処理に携わりながらジオン側ともつながりを断っていなかったということか。
はっきりと戦局が決したわけではないのだから双方パイプを持つのは当然と言えば当然だけれども、それにしたって・・・・・

「兄さん、節操がなさすぎる。」

「子共がエニセイ・レインの流儀に口を出すな!ニーズがあれば応じるのが俺の本懐。仕事だろうが女だろうが、だ。」

「血の繋がった実の姉でも?」

「ゴホッ、恐ろしいことを言うな!とにかく今は時間がない出立するぞ。無事荷を届けたら即退却だ。」

「そのあとジオ、お前の話を聞かせてもらうぞ。今度という今度はごまかしはなしだ。」

格納庫に目をやって僕は、息をのんだ。
そこにあるのは物資ではなく、今まで僕が見たことのないモビルスーツが3体。

『ツィマッド社』
リック・ドム

機体にはそう記されていた。

宇宙空間では人間の感覚は変化する。
重力がなくなることで、脳に入ってくる自分の体の位置や動きの情報が今までとまったく異なり脳が混乱を起こすらしい。
体はものすごく軽くなったけれどさっきから軽い頭痛がおさまらない。

「面白いもんでな無重力から重力のある環境に戻った時の方が違和感は大きいぞ。体が重くて苦労する。」

「そういうものなんですか。」

「ああ、そういうもんだ。坊主は宇宙は初めてか。」

「初めてです。」

「なるほどコロニー生まれか。」

突然衝撃が走り艦が大きく衝撃に揺れる。

「なんでいきなりミサイルを撃ってくるんだ!」

エニセイ兄さんの驚きと対照的に3人のジオンの軍人たちは落ち着き払った様子だった。

「流れ球だな。この船を狙ったわけじゃねぇよ。」

「あーあ戦闘が始まっちまった。俺たち完全に出遅れ組だ。」

「ここはまだ射程外まずは当たらん。当たらなければどうということはない。」

「セキさん、あんたむちゃくちゃ言う。軍艦でもないこの非武装船なら一発命中すればオダブツだ。」

「プッ、ククク。」

兄さんとセキさんのやり取りがおもしろくて僕は我慢できなかった。

「ジオ!この状況の何がおかしい!?信じられん!」

「ごっごめんなさい。」

「反転するぞ!反転!」

「その前にハッチを開いてモビルスーツごと俺たちを降ろしてもらおうか。そのまま俺たちは母艦の連中と合流して戦闘に入ることになるだろう。色々無理を言ってすまなかったなレインさん。」

「いや、このままゆっくり反転しサイド6空域内まで一旦後退する。」

エニセイ兄さんは、ここでモビルスーツを出してジオンの艦とみなされることを避けたかったのだろう。
けれど…

「少し…間に合わないかもしれない。」

僕はぼんやりとつぶやく。

「ジオ、お前大丈夫か?何かヘンだぞ。」

「ヘン?そうかな?」

「坊主、どうしてそう思う?」

「理由はありません、そう思えるんです。」

「そう思える、か。」

セキさんは、そのままブリッジから離れて格納庫に向かった。
あのモビルスーツのある格納庫へ。
僕は、セキさんの後を追う。
相変わらず頭痛は収まらないけどたいしたことはない、そのぶん神経は研ぎ澄まされている。
むしろその「研ぎ澄まされた感覚」に僕は酔っていた。

(来る!)

いきなりドン!
というものすごい衝撃とともに格納庫左舷にわずかな亀裂が開く。
ものすごい勢いでその亀裂に物も人も吸い込まれる。
まずい、このままだと僕は宇宙に放り出される!
僕はノーマルスーツさえ着ていなかった。

「よっと!危なかったな。」

まだ名も知らぬセキさんの部下、若いジオンのパイロットが僕の手首をつかみ、そのままモビルスーツのコクピットまで引き寄せてくれた。
コクピットの無線からエニセイ兄さんとセキさんの声が聞こえる。

「まずい!このまま何とかサイド6の領空までとべるか。」

「な、なんとか!」

「レインさんハッチを開けてもらおうか!さもなくば我々は力づくでハッチをこじ開けて出る。」

セキさんが搭乗したモビルスーツがゆっくりと動き出した。

「兄さん!セキさんは本気でハッチをこじ開けて宇宙に出る気だ。ハッチを開けたほうがいい!」

そう言っているそばからセキさんのリック・ドムがメキメキとものすごい音を立てながらハッチをこじ開けていく。

「ジオ!お前、今どこにいる!?まさか!」

そのまさかである。
僕は今まさにリック・ドムのコクピットにいる。

「おい待て!貴様ら、ジオをどうする気だ!」

「そう人聞きの悪いことを言われても!ああ、この際しょうがねぇ、坊主しっかり捕まってろよ!」

「はい!」

「よし!」

彼はそう言いながら他の2機のモビルスーツと共にこじ開けたハッチの隙間から真空の空間へと滑り出していく。
その瞬間機体は加速し、一瞬ものすごい重力が体全体にかかる。
平衡感覚を失いながら息をすることさえできぬ僕の周りに無限に広がる「星の世界」
その無限の空間から閃光が放たれる。
恐怖と感動がないまぜになる不思議な感覚に包まれながら僕は息をのんだ。

「敵の位置は?」

彼は冷静に対処する。

「主砲並みのビームライフルか!噂通りだな。」

白い機体は四方から降り注ぐ星々を切り裂いて一撃でリック・ドムを打ち抜き破壊する。
連邦のモビルスーツのなんという機動力と運動性!
あれは確かに素人の僕の目から見ても突出している。

「…嘘だ、まさかこんな、ああっ!」

「まるでこ、こっちの動きを読んでるようだぜ!」

「き、気まぐれだよ、まぐれだ!」

ジオン兵に動揺が走る。
双方から発射されるビームが交錯する中では、目視することさえままならない。

「こうなりゃ攪乱するしかない、例の手でいくぞ!」

「わかった!」

この時僕はすでに激しい悪寒と絶望感に襲われていた。
ジオンのモビルスーツではこの白い機体を倒すことは不可能だ。
そして相手の意識がはっきり感じ取れたその時、
僕もはっきりと知覚することができた。
あの連邦の白いモビルスーツに搭乗しているのが『彼』なのだと。

「ダメだ!回避したほうがいい!向こうは今、正確にこちらを捕えた!」

「えっ!?」

その瞬間、僕たちが搭乗しているリック・ドムは凄まじい衝撃とともに撃破された。
たった数分の出来事なのに僕たち以外、皆撃墜され宇宙の藻屑と化してしまったのか。
一戦闘小隊はいたというのに。

「坊主…生きてるか?」

「…何とか。」

けれど、衝撃で全身を打ち付けあちこち骨折したのだろう激しい痛みで身動きが全く取れない。
機体も完全に操作不能、いつ爆発してもおかしくはない状態のようだ。
機体が大破せずコクピットが無傷なのは彼がわずかにビームライフルの軌道から機体をずらしたおかげなのだろう。
だがコクピット内の空気は薄くなってきている。

「お互い運がいいのか悪いのか、このまま宇宙で漂流しながらゆっくり窒息死するぐらいなら即死の方がましだったかもな…ゴフッ。」

彼は血を吐きヘルメットの内側を汚し、そしてそのまま動く事はなかった。
僕はまだ彼の名前さえ聞いていなかった。
そうして僕もゆっくりと意識が混濁していった。

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「あなたは動いても大丈夫なの?エニセイ。」

シシリアがため息交じりで問いかける。
何がどうなってこんなことになったのか彼女はいまだよくわかっていないらしい。そんなシシリアに弟は努めて明るくふるまう。

「俺はこの通り五体満足。輸送船が使い物にならなくなったのと捜索艦にべらぼうな費用がかかったのが痛恨の極みだが命があっただけ良しとするよ姉上殿。それよりも救出されたジオは?」

「ジオは助かったわ。一緒に救出された軍人さんのほうはお気の毒だったわね。今戦闘でのジオン軍生存者はゼロよ。凄まじいわね連邦軍は。でも不思議じゃない?ノーマルスーツを着用していたプロのパイロットが死亡して、ジオが重症ながらも生きながらえるなんて普通では考えられないわよ。」

「ジオはおそらく敵のモビルスーツの攻撃を受けた瞬間、衝撃を無意識に上手く受け流したのやもしれん。あの子はあの輸送船で相手の攻撃を事前に感知していたふしがあったし、もしかしたらジオはニュータイプかもしれんぞ!」

ニュータイプって、あのニュータイプ?あれは宇宙ノイローゼみたいなものでしょ?こんな時にあなたは全く呑気ね。」

「うわあ、それは酷いおっしゃりよう。」

「違うの?」

ニュータイプとは、常人とかけ離れた未知なる強い力を持つ、来たるべき新時代に適応進化した新人類。」

「あなたは信じるの?ニュータイプ。」

「俺は間違いなく存在すると確信するね。ニュータイプニュータイプ同士共鳴を起こすというし、もしかしたらジオは自分でも自覚がないまま無意識に強いニュータイプ能力を持つ人間に引き寄せられたかも。」

「そんなことが本当にあるのかしら?あるとしたら…。」

「あの時のジオは尋常じゃなかったよ。」

「お前たち、いいかげんにせんかっ!」

それまでひたすら黙り込んでいたテムズ・レインは突如としてたまりかねたように大声で怒鳴り出し、そばにあった椅子を蹴りあげた。

「うわっ、びっくりした!」

「ちょっと!ここを何処だと思っているの?病院よ!」

「くだらぬことをうだうだと!特にエニセイ、ニュータイプなどとくだらん言葉、口にすることは金輪際許さん!特に俺の前ではな!いいか、そんなものは所詮都合の良い幻想、棄民の慰めにすぎん。周囲がそんな曖昧なものをもてはやせば子供が現実を見失うのは当たり前だろう。もし仮にそんなものが存在したとしても結局は人殺しの道具として利用され消費されるのが運命だ。戦争とは…戦争とは、そういうものだ。」

テムズ・レインは椅子に元に戻し、ゆっくりと両手で顔を覆い座り込む。

「……。」

その悲痛な姿に二人は言葉を失った。
だがやがて長兄は顔を上げ決意したように立ち上がる。

「ジオが無事だとわかればそれで十分だ。時がおしい行くぞシシリア、我々は片付けねばならんことが多々ある。俺は監察官を、お前はマスコミ関連を抑えるぞ!」

「隠蔽するわけね。」

シシリアの目が光る。

「ふん、金と権力はこういう時にこそ使わずしてどうする!いかに栄華を誇ろうが連邦によって宇宙へと打ち捨てられた棄民の末裔、その我々が自分と身内に甘くて何が悪い!」

「そうね、我が社のこれからを考えるならこのまま手をこまねいてもいられないわ、急ぎましょう。」

彼らは肩を怒らせて病室をあとにする。
そんな二人の姿を尻目に残されたエニセイはガラス越しに見える昏睡状態のジオ・レインにあらためて目をやり語りかける。

「あーあ、こういうときだけガッチリ結束しちゃって。俺があれほど四苦八苦してもあの二人の確執をどうにもできなかったってのに、ジオは一瞬でまとめ上げてしまったなぁ、ははっ、やるじゃないか、ジオ、ははは。」

そのまま彼は壁にもたれかかりずるずると座り込んだ。

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「ジオ、お昼もらってきたわよ。病院食なのにすっごくおいしそう。個室の病室なんて私初めて!ホテルみたい!」

セリの元気な声が響く。

「やっぱり金持ちは違うな。にしてもジオ、【サイド7】から命からがら帰還した俺たちが五体満足で、どうしてお前がこんなにボロッボロになってんだよ?」

コーリーはあきれ顔だ。

「ええと、いろいろあって…。」

ようやく面会謝絶が解かれた僕のところに信じられない来訪者が現れた。
それにしても僕は自分のこの状態を彼らに分かるようどう説明すればいいのだろう。

「食べさせてあげる、あーん。」

「セリ、こいつを甘やかすなよ。」

「いいじゃないこういう時はお互い様よねぇジオ、私達もすっごく大変だったのよ。【サイド7】で避難命令が出たかと思えばコロニー内にジオン軍モビルスーツが侵入してきていきなり戦闘が始まって…。」

「俺たちは運が良いほうだったがその戦闘で一般市民も軍関係者も大半が死亡。【サイド6】に辿り着くのもこんなに時間が掛るとは。俺の親父は一応連邦の軍属技師だからもう少し融通が利くと踏んでたんだがダメだなやっぱりコロニー建設技師程度じゃ。何もかもが軍優先でウンザリだったよ。」

そう言いながらコーリーは、小型冷蔵庫にあるミネラルウォーターに手を伸ばした。

「ああ、栓抜きなら確かそこの引き出しに、」

「いや、大丈夫、よっと!」

コーリーは軽々と素手でビンの栓を開けてしまった。
すごい握力だ。
その瞬間、僕の脳裏に若いジオンのパイロットの姿がよぎった。
宇宙空間に放り出されそうになった手首をつかんで自分のモビルスーツのコクピットまで引き寄せてくれた。
彼も強い握力の持ち主だった。

彼はもういない。
セキさんや他のジオン兵も。
不意に涙がこぼれた。

「ねえ、ジオ泣いているの?」

セリとコーリーはお互い顔を見合わせる。

「大丈夫。」

「……なあ、ジオ。」

コーリーは椅子に後ろ向きに跨ぐように座り言う。

「ジオはニュータイプって知っているか?」

「知ってる。ジオン・ダイクンが提唱した来たるべき新人類ってやつ。」

「観念的な表現だなー。まあといかく勘がものすごく良く洞察力が高く危機察知能力に優れているすごい人間を俺やセリは宇宙で幾度か目の当たりにしたんだ。噂では能力の高いニュータイプなら敵味方関係なく意思疎通しあうことも可能なんだと。だがな、」

「そこが戦場である以上倒すべき敵の思考に触れることは致命的だとは思わないか?人間て奴はそんなに強くない、敵をただの物か何かと捉えていたほうがよほど迷いなく相手を攻撃することができる。だからニュータイプと呼ばれる人間は才能を開花させればさせるほど苦しむことになるんじゃないかって。」

コーリーは天井を見上げる。

「だとしたら冗談じゃない、俺はそんな才能は御免こうむるって泣き喚いたんだが、セリはそうは思っていないらしい。」

「え?」

ニュータイプへの覚醒で人類は変わる。力んだりあれこれと余計なことを画策したりする必要なんてない、私達はただその時を待てばいい。」

セリは、静かに呟いた。

「コーリー、セリ、君たちは…。」

ジオは顔を上げ、あらためて長年親しかった友人ふたりを見上げた。

「うふふ、私もコーリーもジオの気持ちなんとなくわかるわよ。私達のこと、とても心配してくれたのよね。」

「……。」

「ねえジオ、あなたが会いたいと思ったあのひとの話を聞かせて。私達も話したいことが山ほどあるんだから。聞いてくれる?」

僕は、力強く頷いた。
                                 完